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神戸家庭裁判所 昭和61年(少ハ)6847号 決定

少年 W・S(昭46.12.14生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

本件強制的措置許可申請を却下する。

理由

(非行事実)

司法警察員作成の昭和61年12月4日付(二通)及び同月5日付各少年事件送致書記載の犯罪事実のとおり(単車盗9件・・・・・・昭和61年8月1日、9月21日二台、同月22日二台、同月28日、同年10月10日、同月19日、同年11月12日、同月13日。工具類の窃盗1件・・・・・・同年10月19日)。

(強制的措置許可申請の要旨)

少年は、強盗、単車の窃盗等の非行により昭和61年7月3日教護院送致の決定を受け「若葉学園」に入所したが、同年8月1日無断外出をし、以後自宅や友人宅で過ごし、夜間徘徊をしては中学生の男女不良友人らと交友し、10月19日には不良仲間2人と共に原付車、工具を11月3日にも不良友人と共に自動二輪車を窃取した。母親は上記決定に不満を抱き少年が自宅に立寄り、寝泊りしても「若葉学園」に帰らせようとせず、むしろ訪問してきた同学園の職員に対して少年の兄ともども虚偽の返答をしたため少年の無断外出は3か月以上の長期となつてしまつた。

母親は、少年を全くの放任状態にしてきたこれまでの生活を反省することなく、現時点では「あの子が何をしようと私には関係がない」「私の子供とは思つていない」などと言つて責任を回避し、他に転嫁しようとし、少年もまた母を頼りにして同学園に戻されても無断外出すると言い張つており、このままでは同学園において教護を継続することは困難である。

よつて、少年の生活を安定させ、生活訓練を行なうには、通算6か月(180日間)の強制的措置を加えうることとすることが必要である。

(法令の適用)

窃盗につき刑法235条

共犯につき同法60条

(処遇理由)

上記教護院送致決定において指摘したとおり、少年は、幼いころ養護施設に預けられ、9歳のころ母親に引取られたが、あまり世話もされずに放任され、安定した受容的な人間関係の乏しい環境で成育し、人格、特に情緒面の発達が遅れている。他人への共感性、感受性に乏しいため他人と精神的交流をもちにくく、無気力で感情や意志を適切に表現できないため、被害感・劣等感を抱きやすく、これを合理的に解消できずに、非行・不良交友という形で発散してきており、規範意識はほとんど認められない。また、怠学傾向が著しく、中学3年生になつてからは1日も登校せず、テレビ、夜間徘徊などに時間を費し、不規則、無気力で無目的な生活をおくつていた。

少年は、強盗・窃盗等の非行により昭和61年7月3日教護院送致決定を受け「若葉学園」に入所したが、同学園での生活に馴染まず、入所後1か月もしない同年8月1日に無断外出をして自宅に戻り、しばらくは家に閉じ籠り外出することは少なかつたが、9月ころからは次第に夜遊びなどに出かけ、友人と夜どおし徘徊したり、朝帰りするなどの生活をおくり、この間に、単車乗りたさから単車盗等の非行を繰り返してきた。11月ころには飲食店で数日間働いたことがあつたが、これもしんどくなつて直ぐに退職してしまつている。

母は、○○中の生徒指導担当教諭・教護院の教護らが少年を探しに訪問しても、少年は帰宅していない、どこにいるか知らない、自分には関係がないなどと言つて、少年を隠し、抱えこんでしまうが、母自身の生活ぶりには特に従前と異なるところはなく、少年を適切に監護する姿勢を示さず、また、その能力もない。少年の母方祖母及びその夫は母の手前、口を出せない状態である。

なお、強制的措置をとる設備を有する国立教護院「武蔵野学園」は入園待機者が10名くらいおり、少年が入園するとしても昭和61年内は無理であると、同学園関係者が述べている。

以上の事情によれば、少年の母親に現時点で十分な監護をすることは期待できず、他に適当な指導者も見出せず、少年を若葉学園に戻しても再び無断外出をする可能性が高く、国立教護院には速やかな入園が望めないと認められるから、少年を初等少年院に収容の上、受容的な雰囲気の中で、基本的生活習慣、集団への適応性を養わせる一方、情緒的発達を促すよう矯正教育を加えることが必要である。よつて、窃盗保護事件については少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して主文1項のとおり、強制的措置許可申請事件については少年を少年院に送致する以上その必要がないので主文2項のとおり決定する。

(裁判官 大串修)

〔参考1〕 司法警察員作成の少年事件送致書の犯罪事実

(昭和61年12月4日付けの1)

1 被疑者は昭和61年8月1日午前2時ごろ、神戸市西区○○町×丁目×番駐輪場においてA(54歳)所有の原動機付自転車(○○町と××号)1台(時価10,000円相当)を窃取したものである。

2 被疑者は昭和61年9月21日午前4時30分ごろ、神戸市北区○○×丁目×番市住×棟駐輪場においてB(46歳)所有の自動二輪自動車(○○さ××号)1台(時価70,000円相当)を窃取したものである。

3 被疑者はCと共謀して昭和61年9月21日午後11時ごろ、神戸市北区○○×丁目×番市住×棟前においてD(32歳)所有の自動二輪自動車(○○と××号)1台(時価30,000円相当)を窃取したものである。

4 被疑者はCと共謀して昭和61年9月22日午前1時ごろ、神戸市北区○○×丁目×番×号○○ハウス駐輪場においてE(16歳)所有の自動二輪自動車1台(○○と××号)を窃取したものである。

5 被疑者はCと共謀して昭和61年9月22日午前2時20分ごろ、神戸市北区○○×丁目×番地の×前路上においてF(55歳)所有の自動二輪自動車(○○た××号)1台(時価150,000円相当)を窃取したものである。

6 被疑者は昭和61年9月28日午前1時ごろ、神戸市北区○○×丁目×番×棟東側空地においてG(35歳)所有の自動二輪自動車(○○む××号)1台(時価200,000円相当)を窃取したものである。

7 被疑者は昭和61年10月10日午前3時ごろ神戸市北区○○×丁目×番公団×棟北側路上においてH(18歳)所有の自動二輪自動車(○○み××号)1台(時価100,000円相当)を窃取したものである。

8 被疑者は昭和61年11月13日午前1時30分ごろ、神戸市北区○○×丁目×番×棟東側路上において、I(54歳)所有の自動二輪自動車(○○た××号)1台(時価150,000円相当)を窃取したものである。

(昭和61年12月4日付けの2)

被疑者両名は、共謀のうえ、昭和61年11月12日午後7時30分頃、神戸市北区○○町×丁目×番×号先駐輪場において、大学生、J子(19歳)所有の第一種原動機付自転車(○○え××号)1台(時価8万円相当)を窃取したものである。

(昭和61年12月5日付け)

被疑者、W・S(14歳)はK(15歳)同C(14歳)らと共謀して

(一) 昭和61年10月19日午前0時30分頃、神戸市北区○○町×番○○団地××棟自転車置場においてL(19歳)所有にかかる工具類一式(スパナ1点他計4点)時価1,000円相当を窃取し、

(二) 更に同年10月19日午前1時20分頃神戸市北区○○町×番×号棟前北側駐輪車に駐輪中のM(18歳)所有の第一種原動機付自転車1台(○○え××号)時価60,000円相当を窃取したものである。

〔参考2〕 送致書

神児相第1400号

昭和61年11月17日

神戸家庭裁判所長 様

神戸市児童相談所長

○ ○

送 致 書

下記児童は審判に付するを相当と認め送致する。(児童福祉法第27条2項 号 少年法第6条3項 号)

児童名W・S

保護者名W・T子

昭和46年12月14日生 職業 中学3年生

続柄 実母 年令35才 職業

本籍 広島県佐伯郡○○町○○××番地の×

本籍 児童に同じ

住居 神戸市垂水区○○町○○××番地 神戸市立若葉学園

住居 神戸市北区○○×丁目×番市営住宅××号

1.審判に付すべき理由

児童は、昭和61年8月1日から若葉学園を無断外出していたが、昭和61年11月3日神戸市北区○○町×丁目に於いて発見、保護されたものである。児童は強盗・単車盗などの犯罪にて、昭和61年7月3日貴所の審判を受け、教護院送致となり若葉学園に入所した。実母は、その審判決定に対して不満を持ち続けており、そのため、今回学園を無断外出した児童が家に立ち寄り、或いは寝泊りしているのを知りながら若葉学園へ戻すための行動をとらず、むしろ、児童の兄と示し合せて、家庭訪問した学園職員に対して嘘偽の返答を繰り返していたものである。そのため、3ヶ月以上に亘る長期間の無断外出となってしまった。その間、児童は自宅や友人宅に寄居したりして夜間徘徊しては○○中学生のN子や、○×中学生C、Kらと交遊し、昭和61年10月19日午前0時頃から午前2時30分頃までの間にC、Kと共謀して神戸市北区○○町に於いて自動二輪車・工具を連続して窃取し、昭和61年11月3日にもO(16歳)と共謀して単車を窃取している。実母は、児童を全くの放任状態にしてきたこれまでの生活を反省することなく、「あの子が何をしようと私には関係がない」「私の子どもとは思っていない」などと答え、責任を回避し、他に転嫁させようとしている。児童もまた母を頼りにして無断外出すると言い張っており、このままでは若葉学園に於ける本児への教護活動が期待できないため、また学園を無断外出して、将来更に罪を犯す虞れがあるため、観護措置のうえ、心身の鑑別をなし審判に付すことが適当であると思料される。

2.参考事項

〈1〉添付資料 ・児童記録写し

・若葉学園行動観察記録

〈2〉昭和61年10月19日、及び昭和61年11月13日窃盗事案については、後日○○警察署から貴所へ送致される予定である。

3.処遇意見

再度若葉学園を無断外出する虞れが強く、実母も児童をこれまでと同様にかくまってしまうことが濃厚である。そのため若葉学園に於ける継続教護は困難である。少年の生活を安定させ、生活訓練を行なうには、強制措置のうえでなければ指導困難と思料される。国立教護院、武蔵野学院が適当と思料される。

強制措置期間については在園期間中に6ヶ月(180日)を必要とすると判断する。

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